雪の静けさ
雪と聞くとどういうイメージをお持ちでしょうか?
「寒い」「雪かきが面倒」「自分の地域ではあまり降らないから寂しい」
「ロマンチック」「ウインタースポーツ」等々
それぞれに様々なイメージをお持ちの事と思います。
私の住む地域では、毎年雪が降り積もります。幼い頃には、待ち焦がれて楽しんだ雪も、いつしか「面倒なもの」へと変わっていきました。
雪かきの重労働、雪道の運転、年に二度のタイヤ交換(家族の分も)・・・。
冗談交じりに「雪はスキー場にだけ降ればいい」なんて言ったりもしています。
そんな雪ですが、人間の勝手な都合が良くても悪くても、条件さえ整えば降るのが当たり前のものです。頭では分かっていても、ついつい「あぁ・・・積もるなぁ・・・」なんて考えてしまうところが、間違いなく悪人な人間ですね。
さて、風が殆どない雪が降り積もる夜中に、窓を開けてみた事がある方はどのぐらいいるのでしょうか?
換気の為に開けた事があるよという人もおられると思いますが、しばし雪の降る空間をじっくり感じた事があるという人は、あまり多くはないと思います。
雪というのは、雨等と違い、限りなく音を立てずに降り積もります。
そして、その気候的な特徴から、野生の生物は静かに身を潜めます。
降り積もった雪は、柔らかくもたくさんの空気を内部に抱えて、吸音材のような役割をはたし、人間の出す音をどんどん吸収してしまいます。
夜中ともなれば、その状態を顕著に感じ取ることができます。
虫の声、蛙の声、野生の動物や鳥が出す声や音。
それにくわえて、夏場等には、少し離れた所に走っている高速道路を走る車の音がしっかりと聞こえてきますが、それさえ聞こえません。
ただただ静寂の空間がそこに広がります。
その空間で耳をすませておりますと、「シーン」とは良く言ったものだと感心する音の世界がありますが、しばらくすると、気圧の関係や体調の関係で聞こえる事がある「ピーン」という音を限りなく小さくしたような音に気が付きます。
それが自然が発している音なのか、自分の耳で鳴っている音なのか、それは私には分かりません。
ただただ小さく「ピーン」と聞こえ、そこに意識を集中しすぎて、いつしか息を止めていた事に気が付き、ふと呼吸をします。
ピーンという音に、普段は感じない自分の普段の状態での呼吸音がそれに混じります。
体を動かすと、布がこすれる音もしっかり聞こえてきます。
本当になんでもないその静寂の時間に気がついたのは、私がまだ小学生の頃でした。
風のない雪の夜中、そんな時間には、今でもふと窓を開けて、その静寂という名の音の世界を楽しむのが好きです。
いつしか寒くなり、窓を閉めると、そこは途端に俗世の音の世界になります。
そんな中で動き出す暖房の音の後ろで、あの静寂の音が聞こえているような気がして少し名残惜しさを感じると同時に、人間として生きているのだという実感がひしひしと感じられます。
様々な生命が、それぞれに様々な思いの中で生きている世界であることを感じます。
何故かは、わかりませんが、静寂の世界に、穢土にはないものを感じているのかもしれませんね。
現在外には雪が積もっています。
その中で、私の雪のささやかな楽しみ方をしたためてみました。